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コロナ禍を経た飲食店の衛生管理

2020年10月19日

新型コロナウイルスは、感染力の異常な高さが、私たちのビジネスにとっても脅威になっています。
弱毒なので誰に感染しているのかが分かりにくく、致死率が低いために罹患者が生きている限りはウイルスが死滅せず、発症期間が長いためにウイルスの放出期間が長くなり、少量で感染拡大するために、どんどん感染が広がっていく、極めてやっかいなウイルスだからです。

罹患者の約80%が軽症もしくは無症状と言っても、死亡者が皆無なわけではなく、いつ、だれから移されるか分からない恐怖が危機感になります。人々は不安からあらゆることに疑問を持ち始め、生活様式を変化させました。新型コロナウイルスが生活意識を根本から変えてしまったと言えるでしょう。
もはやコロナ禍以前の生活に戻れないのです。ウイルス自体は有効な治療薬が開発されれば怖くなくなるのかもしれませんが、人々に植えつけられた恐怖心は二度と消えることがありません。

今までの延長線上で飲食店経営していてはライフスタイルの変化についていけず、ビジネスモデルを維持できるはずがありません。まったく別の未来を模索する必要があるのです。

新型コロナウイルス、ノロウイルス、O-157の知識

わが国では5月4日に政府の専門家会議が示した「新型コロナウイルス感染対策の状況分析・提言」を踏まえて、5月14日に各業界団体よりガイドラインが発表され、それがお客さまを迎える上の基本指針になっています。
共通する感染防止の考え方は人から人への感染防止と衛生管理の強化徹底であり、その具体的な内容を理解しておく必要があります。

言うまでもなく新型コロナウイルスは病原体です。私たちが注意しなくてはならないのは、ご利用のお客さまが罹患された場合に重篤化する可能性のある病原体で、食中毒の症状を引き起こすO-157やノロウイルスには注意を払ってきましたが、これからは呼吸器に取りついて風邪の症状を引き起こす新型コロナウイルスにも気を配る必要が出てきたというわけです。
病原体には主に細菌とウイルスがあります。O-157は腸管出血性大腸菌と呼ばれる細菌なので、新型コロナウイルスやノロウイルスとは別種になります。


細菌は細胞を持つので生物に分類され、適度な環境があれば分裂によって自己増殖することができます。しかしウイルスには遺伝子と、それを囲む物質しかありません。細胞がなく自力で増殖できないので生物には分類されず、生物と非生物の中間のような存在なのです。
O-157は細菌で細胞があるから治療薬として抗生物質が効きますが、新型コロナウイルスもノロウイルスは細胞がなく遺伝子だけの存在なので、抗生物質が効かず治療しにくい病原体です。

同じウイルスの仲間でも新型コロナとノロは構造的に違うので対処の仕方が異なります。新型コロナはエンベロープウイルスという油性の外膜を持つタイプなので、油脂を溶かす界面活性剤やアルコール消毒液で消毒できます。ノロはノンエンベロープウイルスという外膜を持たないタイプなので次亜塩素酸ナトリウムを使わないと消毒できません。

衛生管理の徹底強化で気をつけたいポイント

衛生管理の基本は手洗いです。手洗いの効果については、経済産業省が手洗いをしない場合の残存ウイルスが約100万個で、石けんで10秒もみ洗いした後に流水で15秒注ぐを1回やった場合に数百個、これを2回くり返した場合には数個になったと発表しています。
正しい手洗いは

①水洗い
②石けん洗い
③水流し
④乾燥
⑤消毒

の順番です。
厚生労働省がホームページとYouTubeで公開している「ノロウイルス等の食中毒予防のための適切な手洗い」という動画が分かりやすく丁寧に解説しているのでお勧めできます。キーワード検索であれば「厚生労働省 手洗い動画 」でヒットすると思います。
(厚生労働省「正しい手洗い方法」:https://youtu.be/Eph4Jmz244A)

店内の衛生環境は正しく洗浄し消毒できているかがポイントです。洗浄と消毒は別なので、汚れを落としたいのか、病原体を殺したいのか目的をはっきりさせてください。
病原体はほとんどの場合、汚れとともにいます。汚れは殺菌剤から病原体を守る防波堤の役割をするので、完全に汚れを落としてから殺菌しないと消毒液が汚れに食われてしまい、効きが悪くなります。
汚れは無機汚れと有機汚れに分類できます。無機汚れは物と物が化合してできた汚れで、ガラスの水垢やトイレの黒ずみが代表的です。石化した固い汚れなので酸性洗剤で落とすのが基本になります。

有機汚れは油脂やでんぷん、たんぱく質といった有機質が主成分で、キッチンのベタベタ汚れや手垢が代表的です。熱すると炭になる柔らかい汚れなのでアルカリ性洗剤で落すのが基本です。有機汚れで代表的な油脂汚れは低温で落ちにくいので加熱が有効、でんぷん汚れは糊化する性質があるので漬け込み洗浄が効果的、たんぱく質汚れは熱にさらすと固化して落ちにくくなるので加熱しないというのが汚れ落としのコツです。
それ故に清掃作業ではどんな汚れかを見極めて洗剤や道具、洗浄方法を選ぶことが重要です。清掃面に合わない洗剤を使用すると素材を傷めて変色したり変質したりします。使い方を間違えると有毒ガスが発生したり引火する恐れが生じたりします。作業手順を間違えた清掃では病原菌を広げてしまう可能性があるからです。

消毒について、政府より新型コロナウイルスに有効と発表されている殺菌消毒剤は、今のところエタノール液、界面活性剤、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウムの4種類です。

エタノール液というのは手指洗いに使われるアルコール消毒液と同じです。揮発性が高く拭き終わった後に水ですすがなくてよいので、水拭きできないところに使用できます。
政府見解は70%以上を推奨していますが高濃度で殺菌力を持ち、95%以上の純度があると水分活性を失うので効果がありません。したがって市販のアルコール消毒液は希釈しないものと理解しましょう。

界面活性剤は家庭用洗剤の主成分で、水に溶けやすい性質と油脂にくっつきやすい性質をあわせ持つので、ウイルスの外膜を破壊して無毒化します。政府見解では0.01~0.02%に希釈した界面活性剤による拭き掃除で新型コロナウイルスに効果があるということです。
界面活性剤でプラスチック面を拭いたままにすると傷めてしまうことがありので、掃除に使用したらすぐに水拭きします。塗装面に使用するとシミになる恐れもあります。

次亜塩素酸水は酸性の消毒液で酸化作用によってウイルスの内部を破壊して無毒化します。新型コロナウイルスに関する政府見解では、拭き掃除では80ppm以上を希釈せずにたっぷり使い、20秒後に拭き取ればよいとされています。
次亜塩素酸水はコロナ禍対策として公共機関より無料配布されている物があり一時普及したのですが、不安定な物質なので日光に当てたり時間が経つと効果が失われます。保存方法が不適切だったり長期保存したりで殺菌力を失った物も、それとは知らずに配られている場合がありますので注意してください。

次亜塩素酸ナトリウムは塩素系漂白剤の主成分で、アルカリ性の消毒液です。原液は6%溶液であることが多く、0.05%の濃度に希釈して拭き掃除に使用します。器具を使って正しい濃度に希釈するようにしましょう。
次亜塩素酸ナトリウムを使うと、物によっては清掃面が変色したり腐食したりするので注意します。刺激性が強い消毒液なので鼻から吸い込んだり皮膚に触れると人体への悪影響が懸念され、酸性溶液やアルコールなどに混ぜると有毒な塩素ガスが発生するので危険です。

重要なのはスタッフの衛生意識

ノロウイルスなどによる食中毒事故にしろ、新型コロナウイルスによるクラスター発生にしろ、人からの二次汚染が感染拡大を招きます。店舗スタッフが病原体の対処について正しい知識を持ち、個人レベルで衛生管理を徹底すれば感染事故を減らすことにつながります。
お客さまの安全を確保する意味でもスタッフの体調管理が重要事項であり、コロナ禍を経て健康管理表の作成が必須になっています。体温、咳やくしゃみの有無、下痢などの体調不良、手指の傷、家族の健康などを毎日の就業前に確認し、いざという時にはエビデンスが必要になるので記録に残しておきましょう。

店全体に感染防止の理解があり、しっかり対策が施されているのがお客さまの目に見えていれば安心してご利用いただけるでしょう。これからは、綿密な清掃による安全性のアピールに戦略的な価値があります。

※弊社クライアントに向けて作成したPDF資料があります。緊急事態への対応ですので、ご入用の方は飲食店に限りeメールに添付してお送りしますのでご連絡ください。
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